<タックスニュース>

とにかく解決には時間がかかる!  2国間の「二重課税」

国外への利益移転を防ぐ移転価格税制の適用などにより企業に税が二重に課されてしまったとき、両国の相互協議による解決までの期間は平均で約2年半とするデータを国税庁が発表した。相互協議の発生件数が処理件数を上回る発生超過の状態も数年続いていて、次年度に持ち越された繰越件数は年々積み上がっている状態だ。
海外の関連会社に自社商品を通常の取引価格よりも低い価格で販売すると、課税所得はその分減少して法人税負担も少なくなる。一方、海外の関連会社からすれば日本の会社から商品を安く仕入れたことで利益が増え、自国での税負担が増える。結果、本来なら日本の会社の利益となる部分が海外に移転し、税収も海外に持って行かれてしまうことになる。こうした課税所得の海外移転を防ぐため、取引価格が一般企業同士における価格に比べて不当に安かったり高かったりすると判断された時には、そこに課税逃れの意図があったかどうかにかかわらず、一般的な価格に計算し直して、移転された利益部分に追徴課税される。これが移転価格税制の趣旨だ。
だが企業にとっては、同税制が適用されて申告漏れの部分に日本で追徴課税がされると、海外で子会社が納め過ぎた分について二重課税の状態となってしまう。二重課税は自動的に救済されることはないため、申し立てることによって両国の税務当局による「相互協議」での解決を求めなければいけない。またこうした事態になることを事前に防ぐため、各国税局が設けている同税制専用の事前相談窓口などを利用することができるようになっている。
国税庁が11月9日に発表した最新のデータによれば、2021事務年度(21年7月~22年6月)に発生した相互協議の件数は246件で、そのうち事前確認によるものが188件、移転価格税制が適用されたものその他が58件だった。一方で、相手国税当局との合意や納税者の申し立ての取り下げなどによって21事務年度に処理した件数は186件なので、60件の“積み残し”が生まれた。この積み残しの残高は、増加傾向にある。
特筆すべきは、処理事案1件当たりに要する解決までの期間だ。国税庁によれば、移転価格税制その他による事案の平均処理期間は31.5カ月と、2年半に及んでいる。また事前確認をしたものについても31.6カ月と、事前チェックの意味を為していない現状が浮き彫りとなった。さらに相手国の税務当局との連携が取りづらいOECD(経済協力開発機構)非加盟国に至っては、実に平均44カ月もの時間がかかるという。
17年には、国内製薬最大手の武田薬品工業(大阪市)が、海外の子会社に利益を移して不当に税負担を免れているとされて移転価格税制を適用された。申告漏れ額は約71億円で、同社は追徴税額28億円を納付後、ドイツですでに納税をしていることから「二重課税」だとして再調査を請求し、両国の税務当局による協議も求めた。また重機大手のIHI(東京都江東区)も16年3月期までに、海外のグループ会社との取引を巡って移転価格税制を適用され、約100億円の申告漏れを東京国税局に指摘されたケースもある。
同税制が適用されて申告漏れの部分に日本で追徴課税がされても、海外で子会社が納め過ぎた分について自動的に救済されることはない。企業からの要請を受け両国間の相互協議によって調整が行われることもあるが、約3年に及ぶ時間と膨大な手間がかかり、資金力のない中小企業では税負担を飲み込まざるを得ない可能性も高い状況が続いている。

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<タックスワンポイント>

遺留分の請求は現金のみに  2019年に民法改正

2019年7月に施行された改正民法では、約40年ぶりに相続関連法の大きな見直しが行われた。そのうちの一つが「遺留分の金銭債権化」だ。
従来、遺産分割の内容に不満を覚えた相続人が遺留分を請求したとき、その請求の対象となっていたのは「相続財産そのもの」だった。つまり現金だけでなく、不動産や有価証券も含まれていた。
しかしそれでは、遺産の大半を不動産が占める場合、遺留分の請求を受けた時点で共有状態となり、処分や利用に大きな制約を受けてしまう。同様に自社株などが遺留分の対象になると、全株式が共有化状態になってしまい、後継者が議決権などを自由に振るえず経営を阻害されるケースも生じていた。
そこで改正民法では、遺産分割の結果に不満のある法定相続人が遺留分の請求をした時に、その対象を「相続財産そのもの」でなく「遺留分相当額の金銭」と規定した。これにより現在は、遺留分の請求に対しては金銭のみでしか応じられなくなっている。また同時に、それまで使われていた「遺留分減殺請求」という言葉がなくなり、「遺留分侵害額請求」という名称に改められた。
ただ、遺留分の支払いが金銭のみになったということは、請求をされた側はまとまった額の現金を用意しなければならないことを意味する。例えば相続財産のほとんどが不動産のケースで、遺留分を請求された相続人に預金などの現金資産がほとんどない場合、どうすればいいのか。こうしたケースで考えられる対応はいくつかあり、売却できる不動産があるなら現金に換えたり、銀行からお金を借りて遺留分請求に充てたりという方法がある。
どうしても金銭が用意できないのであれば、両者の合意のもとで従来のように金銭以外の不動産などを充てることも可能だ。だがその場合、財産を渡した側に譲渡所得税が課されてしまう点には留意したい。

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