Vol.0138号
<タックスニュース>
“開店休業”の政府税調 政局不安定で増税論議も停滞
東日本大震災の復興財源確保に向けて始動したばかりの政府税制調査会の増税議論が早くもストップした。民主党代表選で復興増税の是非が焦点となる中、具体案を打ち出しにくくなったためで、結論は新体制後に持ち越される見通しだ。ただ、最有力候補の前原誠司前外相も復興増税に慎重で、今後の増税議論の進展にも不透明感が増している。
政府・与党が7月末に復興基本方針を策定したことを受け、政府税調は当初、増税期間を来年度から5〜10年としたうえで、所得税と法人税の定率増税を軸に、消費税や酒税、地方税などとの組み合わせを含めた複数の増税案を8月末までに示す方針だった。
しかし、政府保有株の売却や特別会計の見直しなどで増税規模の圧縮を目指す民主党内の財源検証小委員会は8月24日、結論を代表選後に先送りすることを決定。税調は、B型肝炎訴訟の和解金支払い分などを含めて増税規模を13兆円程度と見込んでいたが、これを確定できない事態に陥った。
さらに、代表選で増税慎重派が目立つ中、「『増税積極派』と見られて支持を落とす税調会長の野田佳彦財務相の足を引っ張れない」(財務省幹部)との判断もあり、税調は「開店休業」状態に陥った。
一方、代表選では、前原氏が「この1、2年増税は慎重であるべき」と発言するほか、野田氏さえも「増税はいつからと固定的に考えない」と軌道修正を図っている。代表選後の交代が噂される「財政規律重視派」の与謝野馨経済財政担当相ですら「5年や10年というと大変だが、もう少し長めの期間を取れば国民が痛みを感じない」と話す。新政権では、復興増税の当初の枠組みは今後大きな変更が迫られる可能性がありそうだ。
<タックスワンポイント>
国税庁 「二重ローン問題」で文書回答 個人債務に係る特例的処理を明示
中小企業や個人事象者らの復興の妨げになるとされる二重ローン問題だが、税法上は債務免除が債権者・債務者双方に意外な税負担を強いる可能性がある。そこで国税庁は債務免除に係る税務上の運用について見解を示した。
照会の内容は、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会」(高木真二郎座長)が二重ローン問題の解消を目的に策定した”指針”に適合する債権免除が実行された場合の債権者・債務者の課税関係。債権者がその債権を放棄した場合、税務上は必ずしも損失として扱われるとは限らない。税法上の要件に適わなければ、単なる「債務者への寄付」とみなされ、損金性が認められない。一方、債務免除された債務者には、免除された債務が「債務免除益」として課税所得となる可能性がある。
国税庁の見解は、ガイドラインの対象としている債権者(主に金融機関)の債権放棄によって生じた損失は、法人税基本通達9−6−1「金銭債権の全部又は一部の切り捨てをした場合の貸倒れ」に該当するもので、「合理的な基準により債務者の負担整理を定めているものに準ずる」ことから、法人税法上、「債権放棄の日に属する対象債務者の事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する」としている。また、個人債務者が受けた債務免除益については、所得税法基本通達36−17「債務免除益の特例」で規定する「債務免除益のうち、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合に受けたもの」に該当し、所得税法上、「各種所得の金額の計算上、収入金額又は総収入金額に算入しないものとされる」と回答している。