Vol.0687
<タックスニュース>
政府税調の中期答申 サラリーマン増税を否定
政府税制調査会の中期答申が波紋を呼んでいる。退職金のほか、通勤手当などの非課税所得も対象とする「サラリーマン増税」を政権がもくろんでいるという臆測が一部メディアで報道されたためだ。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は7月25日、岸田文雄首相と会談後、記者団に「党の税調の中でそういう議論をしたことは一度もないし、会長の私の頭の隅にもない」と否定した。岸田首相から「自分は全く考えていないが、どうなんだ」と問いかけがあったという。
宮沢会長は「政府税調のメンバーのある意味で卒業論文みたいなもの。いろいろ書かれているが、正直言って制度の紹介的なものがほとんどだ」と答申の内容を説明。一部メディアが、今後の税制のあり方として検討の必要性を示した税金や単なる紹介とした項目まで「増税を検討している」と報道し、SNSなどを中心に政権への批判が高まっていた。
答申は、税の仕組みや歴史、今後の課題などを網羅した「教科書」のような内容。全261ページで6月30日に公表された。
退職金は所得課税の項目の一つとして説明する中で「補論」でその歴史に触れている。勤続20年を超えると退職所得控除40万円から70万円に拡大することから1社で長く働くことを優遇する仕組みと説明。その上で、「近年は、市場における様々な動向に応じて、税制上も対応を検討する必要が生じてきている」と指摘した。
退職金以外に企業年金など老後資産を形成する他の商品も増えたため、「給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスにも留意しつつ、引き続き、中立的な税制のあり方を検討していく必要がある」と今後の課題を提示している。
通勤手当などは「参考=主な非課税所得」として列挙されただけで、個別の指摘はない。非課税所得については「経済社会の構造変化の中で非課税等とされる意義が薄れてきていると見られるものがある場合には、そのあり方について検討を加えることが必要」との方針を示している。
特定の条件で一定期間税制優遇を受けられる法人税の「租税特別措置」のように、答申で「期限到来時には、必要性や有効性を検証の上、廃止を含めてゼロベースで見直す必要がある」と強い表現で触れた部分もある。一部メディアはこうした点を切り取り、臆測と組み合わせて記事にしている例もあるようだが、答申では全ての税目について「税率を引き上げるべきだ」などと具体的に触れる項目はなかった。
答申が6月30日に公表された後、政府税調の中里実会長(当時)は「将来に希望が持てるような社会が実現されることを切に願う」と強調した。1人でも多くの人が手に取って将来の税制のあり方を考えてほしいとの期待も示していた。
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<タックスワンポイント>
相続人のなかに認知症患者がいるときの遺産分割協議 成年後見人を利用しても分け方には制限
高齢社会化の進行に伴い、認知症患者の増加が社会問題となりつつある。老々介護も珍しくなく、親が亡くなったときには子もすでに高齢で、なかには認知症を患っているということもある。こうしたとき、遺産分割にはどのような問題が生じるのか。
相続人の中に認知症で判断能力が全くない人がいて、遺言書で財産の分け方が指定されていない場合、遺産の分け方は2通りある。法定相続分通りに分けるか、あるいは成年後見人を立てて遺産分割協議をするかだ。相続人が認知症だからといって、その子(亡くなった人の孫)など推定相続人だけで遺産分割協議を進めることは認められていない。
成年後見人を付けるのが面倒だからと法定相続分通りに分けると、小規模宅地の特例などの税負担軽減措置のメリットを最大限活用した遺産分割ができない恐れが生じる。また不動産は相続人全員の名義で共有となるため、判断能力がない相続人が一人でもいるとスムーズに処分もできないなど不都合もある。
一方、成年後見人を付けたからといって、自由に遺産分割ができるわけではない。後見人を交えて遺産分割協議をするケースでは、後見制度が被後見人の保護を目的とするものだ。そのため、原則として被後見人の法定相続分を確保する分け方でなくてはならず、完全に自由な遺産分割はできない。また後見制度は一度スタートすると原則的に途中で止めることができないので、弁護士など親族以外の専門家を後見人に付けると、遺産分割協議が終わった後も被後見人が死亡するまで報酬を支払い続ける必要が生じてしまう。
このように認知症を患っている人が相続人にいると自由な遺産分割はできなくなる。財産を残す立場の人は、遺言書を作成するなど生前対策を講じるようにしたい。
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