Vol.0595
<タックスニュース>
法人最低税率 大枠合意も道険し
経済協力開発機構(OECD)は7月1日、国際的な法人税改革に関する交渉会合を開き、世界共通の最低税率を15%とすることで大枠合意した。会合には先進国から途上国まで約140カ国・地域が参加した。各国の税率の差を利用した多国籍企業による税逃れを防ぐことが目的だが、低税率で企業を呼び込む中国など一部の国に配慮し、特例による税軽減も同時並行で検討する。議論の展開次第では当初の制度趣旨が骨抜きになることも懸念され、各国間の思惑が今後も入り乱れそうだ。
OECD案では、巨大多国籍企業の税逃れを防ぐデジタル課税制度として、国内に拠点がない企業には課税できないこれまでの原則を見直し、拠点がなくても利益を得た消費地である市場国・地域に一定の課税権を認める。具体的には売上高200億ユーロ(約2.6兆円)超かつ、利益率10%超の世界約100社を対象とする。
また法人税引き下げ競争に歯止めをかける各国共通の最低税率は15%以上で導入する。2023年の実施を目指すという。OECDは、今回合意に至った計画によって年間約1500億ドル(約16.7兆円)の税収が発生するとしている。
合意を受け、イエレン米財務長官は「経済外交にとって歴史的な日」と自賛した。また麻生太郎財務相も「大変歓迎している」と述べるなど、主立った先進国は合意を評価している。しかし実態はそう楽観的なものではなさそうだ。
今回の法人最低税率につき、15%を下回る法人税率を設定しているハンガリーとアイルランドは合意を見送った。また中国も合意に参加したものの、「経済特区」に誘致した企業に対する減税特例を認めるよう求めている。今後、最低税率の具体案など先送りした課題を含めて10月の最終合意を目指す。新たな課税ルールが効果を発揮するためには多国間条約の締結や国内法の改正が必要となり、まだまだ道は半ばだ。
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<タックスワンポイント>
どうして生前贈与がオススメなのか 相続税より税率は高いのに…
相続税対策には生前贈与が有効とよく言われる。しかし仮に1千万円の財産を子どもに引き継ぐとして、控除などを抜きにするなら生前贈与にかかる税率は30%だ。しかし同じ額を相続で引き継ぐと税率は10%になる。つまり同じ額の財産を渡すなら、税率だけを考えると相続で渡すほうが得だ。それなら、なぜ生前贈与が相続対策に有効と言われるのだろうか。
そういわれる最大の理由は、生前贈与には様々な非課税ルールが設けられていることがある。そもそも毎年110万円までの贈与には税金がかからないし、最大で1千万円を超える一括贈与が非課税になる教育資金の贈与特例や、住宅取得資金の一括贈与が非課税になる特例もある。こうした優遇を活用することで、本来は高い税率の贈与税を免れることができるわけだ。
さらに、実は特例による税優遇を使わなくても、生前贈与はやはり有利といえる。例えば父親が亡くなって5億円の財産が残されたとする。法定相続人が子2人だけで、差し引けるのが「3千万円+600万円×法定相続人の数」だけだとすれば、2人が納めるべき相続税は1億5210万円になる。
しかし仮に、生前に1千万円を生前贈与していたとする。子への1千万円の贈与にかかる税率は30%なので、基礎控除などを差し引いた贈与税は177万円だ。ところが1千万円減った総財産4億9千万円に対する相続税は1億4760万円と、なんと贈与前より450万円の節税になるのだ。
ここでのポイントは、贈与税は「贈与された財産の価額」に対して課されるが、相続税は亡くなった人の「財産の総額」に対して課されるという点だ。贈与財産と相続財産では同じ1千万円でも、課される税率が変わってくる。
先ほどの例でいえば、課税対象となる財産の総額が1千万円であればそのまま相続税は10%だが、例に挙げたような5億円の財産を持つ人の1千万円にかかる相続税率は、実質的に45%に達している。その分が減るのだから、税率30%の生前贈与を行っても結果的に得をするというわけだ。
さらに相続税の税率は相続財産1億円以下、2億円以下などのボーダーラインで一気に跳ね上がるため、生前贈与によってこのラインを下回ることができれば、節税効果はより大きくなる。相続税対策に生前贈与が有効と言われるゆえんは、ここにある。
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