<タックスニュース>

節税保険の規制  適用される禁断の“遡及効”

経営者の節税策として使われてきた生命保険の「名義変更プラン」に関し、国税庁はこのほど、節税効果を規制する改正案に対するパブリックコメントの募集を開始した。かねてより懸念されていたとおり、通達の改正日から遡って効力を発揮する実質的な“遡及効”が生じるものとなっている。また今後、別の保険商品にも規制が及ぶことも示唆されており、経営者の節税プランに多大な影響を与えそうだ。
今回見直しの対象となるのは、数ある保険商品のうち、逓増定期保険の税務処理だ。同保険は、契約から一定年数を経過したタイミングで解約時に受け取れる返戻金が急激に増加する保険商品で、その反面、返戻金が少ない契約当初には割高な保険料を求められることが特徴となっている。
この特徴を生かして、会社を契約者、経営者を被保険者として契約を結び、保険料が高い時期には会社が支払い、解約返戻金の額が跳ね上がる直前に名義を経営者個人に変更して高い保険料を経営者が受け取る「名義変更プラン」が流行していた。同プランでは経営者は会社から安価で生命保険契約の権利を取得した後、高額な解約返戻金を手にすることができ、解約返戻率が低い時期の譲渡なので納税額も低くて済むため、経営者の保険節税として長年使われてきた経緯がある。
今回明らかにされた改正案では、この名義変更時の譲渡額について見直しがあった。経営者個人に名義変更するタイミングで、その時点での解約返戻金がそれまでの会社の資産計上額の7割以下であれば、譲渡額をこれまでの解約返戻金相当額ではなく、「会社の資産計上額」にするというものだ。つまり名義変更時に会社がそれまで支払ってきた高額な保険料と解約返戻金のあいだに一定のかい離があれば、低額な返戻金での譲渡を認めないようになる。
そして譲渡額の計算方法以上に注目すべきが、その適用タイミングだ。今回の改正通達はパブコメを受けての再検討を踏まえて夏ごろに発遣される見通しだが、その見直しルールの適用は「2019年7月8日以後に契約した保険」とされている。つまり今回の改正通達よりも約2年遡って規制内容が適用されるということだ。改正案には、「今年7月1日以後に行われる名義変更」から適用されるともあり、当局としては厳密には法律などが施行日を遡って適用される遡及効には当たらないとの認識だろうが、少なくとも19年7月以降に節税目的で逓増定期保険に加入した顧問先にとっては、実質的な遡及効の適用に他ならない。節税目的で加入しているなら、6月末までに名義変更をするなど新たな対策を検討しなければならない。
また改正案でもう一つ見逃せないのが、「今回の見直しの対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としています」とした上で、「解約返戻率の低い定期保険等及び養老保険などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討します」と、今後のさらなる規制も示唆している点だ。そして今回の規制で実質的な遡及効が適用された以上、今後同じ扱いが行われることは十分に考えられる。将来的な解約を前提としたあらゆる生命保険の契約が“入ったもの勝ち”ではなくなるときが近づいているといえそうだ。

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<タックスワンポイント>

長年貯めたへそくりが相続税の対象に  配偶者控除は申告が前提

結婚後ずっと収入がない妻の名義となっている高額な預金が「名義預金」と判断され、実質的に夫の財産だったとして相続税がかかることがある。これはへそくりについても同様に考えてよい。夫に先立たれた専業主婦が、コツコツ貯めたへそくりを生活費に充てようとしたところ、税務署から待ったがかかってしまうわけだ。
性善説に立てば、コツコツと貯めた妻の資産であるが、当局からすれば、亡き夫が将来の相続税の軽減を意図して意図的に妻名義の口座へ振り込んでいたと考えることもできる。夫の稼いだ財産を妻が勝手に自分の名義の口座に隠していたという仮説も成り立つだろう。
仮に夫とのあいだで「余った生活費は君が自由に使っていいよ」という口約束があったとしても、それだけをもって妻の財産と認めさせるのは難しい。同様に子ども名義の預金であっても、年齢の割に高額であれば、やはり名義預金とされる可能性が高いといえる。
こうした税負担を避けるには、やはり適正に贈与契約を結んで贈与を実行していることが望ましい。正当な贈与であれば、年間110万円までなら課税されることはない。ここでいう「正当な」とは、贈与契約書を作成することだけではなく、贈与後はお金をもらった者が預金通帳、銀行印、キャッシュカードを管理して、お金を独自に運用しているなど、名義だけではなく実質的にお金をもらった者にその財産が管理、運用されている状態になっていることだ。
なお相続税では、1億6000万円までの配偶者控除が認められている。だからといって、へそくりを含めた財産がそれ以下だと何の対策もしない人がいるが、この特例はあくまでも申告書を提出することが前提であることを忘れないようにしたい。もし税務調査が入って未申告のへそくりが明らかになれば、多額の追徴課税をされてしまう可能性も否定できない。

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