<タックスニュース>

復興財源は臨時増税で  所得税率を10年間1割上乗せ

 10兆円超ともいわれる東日本大震災の復興財源について、所得税の臨時増税での対応を求める声が政府内で高まっている。現在の税率に1割程度を上乗せし、10年ほどかけて財源を捻出する案が有力だ。
 「基幹税を中心に、政府において多角的に検討する」。政府の復興構想会議が6月11日にまとめた提言の素案は、復興財源に関し所得税、法人税、消費税の基幹3税で対応すべきだとの姿勢を明確にした。国の税収の約8割は基幹3税で支えられており、たばこ税などその他の税源を復興財源に充てようとすれば、必要な増税幅が大きくなり過ぎるためだ。しかし、直後から政府内で、復興財源から消費税を排除する動きが強まっている。枝野幸男官房長官はNHKの番組で、「消費税は社会保障の財源で議論されている。その話と混乱させることはよくない」と表明。他の閣僚からも同様の発言が相次ぎ、財源候補は事実上、所得、法人の2税に限定されたといえるようだ。
 政府は消費税を増大する社会保障の主要財源と位置付けており、2015年度までに税率を10%に引き上げる方針を固めている。当初は復興財源として2、3%程度の消費税増税を実施し、その後、社会保障目的に使途を変更する「スイッチ論」も検討されたが、「被災者にも増税負担が及ぶ消費税増税は納得できない」との激しい批判にさらされた。その余波で、本丸の社会保障財源としての消費税率引き上げまで暗雲が立ちこめる事態となっている。復興財源からの「消費税隠し」は、復興財源と社会保障財源確保を切り分けることで、増税に対する世論の理解形成を狙う思惑があるが、震災で打撃を受けた国民に重い負担を強いることになるだけに、どちらも実現は容易ではないのが実情だ。

<タックスワンポイント>

風評被害で売れない…… 損害、損失への税務救済は?

 放射能漏れ事故を起こした福島第一原発。周辺エリアの農作物や沿岸部の小魚から国の基準値を超える放射性物質が検出されたことで、その後、「安全性に問題はない」とされた生鮮食品までもが”風評被害”によって売れない状況が起きている。
 政府が4月27日に施行した震災特例法では個人所得や法人所得、納税手続きに関する税務面からの救済措置が設けられたが、国税庁が同法施行を受けてまとめた『東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取り扱い』と題したリリースの中で「事業所得等の取り扱い・農業所得関係」とする項目を設けて、風評被害に対する税務上の救済について見解を示している。
 リリースでは、「風評被害の震災特例法上の取り扱いについては、損失の実態や原子力損害賠償法の補償の範囲、指針に関する今後の議論を踏まえ、その結論と整合的に取り扱うこととなるものと考えている」。そして、「原子力損害賠償法の補償の対象とされるなど、地震や津波による事業用資産の滅失と同様の損失と認められるものについては、震災特例法における被災事業用資産の必要経費算入に関する特例等や純損失の繰越控除の特例などが適用される」と震災特例法の適用の可能性を認めている。
 国税庁の担当者は、「原子力損害賠償紛争審査会で風評被害にあった農水産物の損害賠償が議論されているところなので、一般論で風評被害と震災特例法の適用状況はコメントしにくいが、原子力損害賠償法で補償地域の範囲、賠償の範囲が明らかになり次第、柔軟に対応していきたい」とコメント。つまり、誰も彼もが風評被害を合い言葉に震災特例法の特例が受けられるということではなく、原子力損害賠償法上の補償対象が一定の適用ラインになると考えてよさそうだ。

税理士法人早川・平会計